数多くの目玉選手がひしめき合っていた2012年ドラフトにおいて、第1回抽選で藤浪晋太郎のクジを外した東京ヤクルトスワローズが外れで指名したのが、当時ヤマハに所属していた石山泰稚。
石山と同じ2012年ドラフトの同期には、2位で先日通算50勝を達成した小川泰弘がいました。石山と小川が互いをどう思っていたかは知り得ません。しかし少なくともファンの間では、ルーキーイヤーから最多勝のタイトルを獲得し一気にエースに躍り出た小川のインパクトに押される形で、石山への印象はどこか薄いものがありました。
とは言え、その石山もルーキーイヤーの2013年は60試合に登板して3勝3敗10セーブ21ホールドを記録。新人ながらシーズン途中からは抑えも兼任し、防御率は2.78と堂々たる成績。「小川さえいなければ」……この年は他に藤浪や菅野智之という大きな存在もいましたが、他の年ならば新人王に選ばれても決しておかしくない成績を残しました。
しかし石山も小川と同様、2年目以降は苦しみながらのシーズンを送ります。
2年目の2014年はリリーフとしてスタートしながら不振で一旦二軍落ちし、夏場以降チーム事情から先発に回って3勝8敗。
チームがリーグ優勝を果たした2015年は主に先発ローテの一角として21試合に登板、5勝5敗。
2016年は右肘を故障しプロ入り最低の13試合登板、防御率7.31と最悪のシーズンとなってしまいました。
今季はその最悪のシーズンから見事復帰し、8月21日時点で50試合に登板。3勝6敗0セーブ20ホールドを記録し、セットアッパーとして来る日も来る日も投げ続けています。
ところで。
「セットアッパー」と言いながら、石山の現在の防御率「3.62」は、決していい数字ではありません。
石山よりホールド数が多い投手の防御率と比較するとこんな感じ(右の数字はホールド)。
M.マテオ(阪神)…2.62(28個)
岩瀬仁紀(中日)…4.29(26個)
三上朋也(横浜DeNA)…5.57(26個)
中翔太(広島東洋)…1.10(24個)
S.マシソン(巨人)…1.97(22個)
J.ジャクソン(広島東洋)…2.20(22個)
リリーフ投手に関しては防御率のみで優劣を論じるのはやや危険なことではあるんですが、他球団のセットアッパーと比較すると安定感という点では……と言ったところか。6敗という少なくない黒星も、それを証明してしまっています。
石山の防御率が直近で跳ね上がったのは8月20日対広島東洋戦、8回から3番手として登板しながら2ラン本塁打2本を浴びて撃沈。この4失点で、試合前の2.92から3.62へ一気に悪化してしまっていました。
とは言え。
石山の月間防御率は、3・4月2.19→5月4.91→6月3.60→7月0.00→8月9.95。今月こそ大きく安定感を欠いているとはいえ、7月は12試合に登板して自責点ゼロの1勝3ホールドをマークしています。
最下位に沈むスワローズの中で、苦しいブルペン事情を支えてくれているといっても過言ではありません。
このセットアッパーという仕事は、普段仕事をしている時はさして注目もされず、失敗した時だけは盛大に叩かれる。
現代野球でこそ「ホールド」という指標で評価は出来まずが、相変わらず辛いわりに報われにくい、そういう因果な役割だと思います。
そんな中で、どちらかと言えば「陰に甘んじて」自らの役割と全うしている石山のほうが、ともすれば先発でエースとして華々しく活躍する小川よりも共感を持てる、そういう人も中にはいるかも知れません。
筆者もどちらかと言えば、小川よりも石山のほうに気持ちが行ってしまうひとりです。
だからこそ。
筆者としては、この先J.ルーキや松岡健一、山本哲哉などでも記事を書くでしょうが、その中で、「セットアッパー」という立場について熱い気持ちで接したいし語りたい。
今回の石山の場合、チームトップの20ホールドをマークし、重要で精神的にもタフな役割をこなしているにもかかわらず、一度失敗してしまえばかなり叩かれる。その因果な役割でのなかでもがく石山を、ずっと見守っていたいと思います。
ちなみにチームがリーグ優勝を果たした2015年、優勝を神宮で決めた時に、石山は翌日の広島東洋戦に先発するために広島に前乗りして胴上げやビールかけには立ち会えませんでした。その優勝直後、記念写真で石山の「12」のユニフォームを着てアピールしていたのが、エースの小川。
石山自身も、クライマックスシリーズ優勝時に胴上げしてもらい、念願のビールかけに参加出来ました。
だからきっと、石山と小川のふたりは仲はいいんだろうと思います。
いずれ日本一を達成した時に、その時はちゃんと石山と小川が輪の中心になってビールかけをやっているのを観たいなと、それがささやかな願いだったりします。